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支笏湖に消ゆ

第30章殺意

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Ch.30 Murderous intention

 芳恵は、工業団地の外れにある小さな公園のベンチに座っていた。
 実は、学校帰りの由美子を待っていた。
 既に下調べをして、由美子の通学路は押さえていた。
 何度か、学校帰りの由美子を尾行して、この公園の横の道を通る時には、彼女一人になることは分かっている。人通りが少なく、静かな場所だった。
 芳恵は、イヤリングを弄りながら、由美子が通るのを待った。

 真之の様子がおかしくなったのは、由美子が自分の子供ではないかと思ったからだろう。
 芳恵は、真之と結婚したいと思っていた。
 もし、由美子が真之の娘だとすれば、彼女は、非常に厄介な存在だ。
 なので、DNA鑑定をして白黒を付けておきたかった。
 DNA配列を調べるのは、芳恵にとっては朝飯前だった。
 大学の研究室で何食わぬ顔で器材を使ってやれば、DNA鑑定は出来る。
 だから、何としても由美子の髪の毛などの体の一部が欲しかった。
 DNA鑑定の結果で、由美子が真之の子供でない事が、はっきりすれば、彼も諦めがつくだろう。
 何よりも芳恵が一番、安心できる。
 もし、真之が父親だった場合は…嘘の結果を真之に伝えて、真実を闇に葬ってしまえばいい。
 そして、由美子の存在も…。
 嫉妬に狂った自分は、由美子を殺してしまうかも知れない…
 芳恵は恐ろしい事を考えている自分に怖くなり、頭を振った。
 ポケットには大学病院の棚から持ってきたクロロフォルムが入っていた。
 もし、由美子が素直に髪の毛を渡さなかった場合は、強硬手段をとるしかない。

 下校時間となり、小学生たちが、ぞくぞくと帰宅してきた。
 しかし、由美子の姿だけ見かけなかった。
 「おかしいな、道草でもしてるのだろうか?」と芳恵は首を捻った。
 待っている内に、徐々に日が傾いて薄暗くなってきた。
 このまま行くと、時間切れだ。

 この後、芳恵には、もう一つ、やらなければいけない重大な仕事があった。
 公園から、工業団地を挟んだ反対側の一角に、モーテルがある。
 そこに、三ツ橋准教授との打ち合わせを終えた葉山美絵と竹上登が、やって来るという情報を掴んだ。
 毎回、竹上の車でやって来る。
 彼の車の中には、密会内容のメモなどの書類が置かれている事を突き止めたのだ。

 モーテルの車庫は、ビニールのカーテンで仕切られているだけなので、簡単に車庫までは入りこめる。
 二人がベッドで燃え上がっている隙に、車に忍び込んで、デジカメで一枚一枚写真を取って、証拠を掴むつもりだった。
 車の鍵の外し方は、わざと自分の車内にキーを忘れて、JAFを呼んでやり方を学習した。
 道具は自前だが、何度か自分の車で試してみて練習を積んで、数分で鍵を開けられるようになった。
 彼らの悪事を衆目の下に晒(さら)せば、盗用した三ツ橋の特許は却下されて、真の発明者である真之の特許が受理されるだろう。

 日が沈み、街は本格的に暗くなってきた。
 そろそろ、あの2人がモーテルに来る時刻になるので、公園を発たなければいけない。
 今日は、残念ながら、由美子の髪の毛を採取するのは、空振りに終わってしまいそうだ。
 またその内、来れば良いやと、ベンチから腰を上げて、公園を出た。

 道に出た時、前方に自転車を漕いでこっちに向かってくる少女の姿が見えた。
 若しかして由美子ではないか?
 と思ったが、薄暗くてよく見えなかった。
 芳恵は立ち止まって、少女が近付いてくるのを待った。

 少女は疲れ切っている様子で、項垂れながらノロノロとペダルを漕いでいた。
 すれ違って、ようやく由美子だと確信した。
「あなた、由美子ちゃんしょ?」
 芳恵が名前を呼ぶと、通り過ぎた由美子は自転車を停めて振り向いた。
「随分と、探したわ」
「ごめんなさい」
 由美子は、呟くように言った。
「どうしてあなたが謝るの?」
「オバサン、私が家出をしたから、探していたんでしょ?」
「どうして家出なんかしたの?」
「それは言いたくないわ。オバサン、ママの知り合いなんでしょ?デパ地下でお話ししてたもんね。それで、家出した私を探してたんでしょ?」
「えっ、そうね。そうなのよ。でも、見つかって良かったわ」
 芳恵は、態度を取り繕った。
「ごめんさい。みんなに迷惑掛けちゃったみたいで」
「どこに行ってのさ?」
「海に行ってたんだ」
「海ってあんた、どこの海さ?」
「マウンテンバイクで石狩湾まで行って来たんだ」
「由美子ちゃん、あんた凄い体力だね」
 芳恵は、不思議な感動を覚えた。

 芳恵も、少女時代、母親と喧嘩をして一度だけ家出をした事があった。
 その時は、友達の家に駆け込んだのだが、一日も持たずに帰ってきた。
「何だか無性に海が見たくなったんだ」
「それで、海を見て気持ちは晴れたんかい?」
「何も晴れなかったんだわ。お腹が空くばっかしだったし、私と同じく、一人ぼっちのカモメが空を飛んでたの。それを見たら、お家に帰りたくなって…」
 由美子は、自嘲気味に笑った。
「したら、これから家に帰るのかい?」
「うん、お金もないし、お腹もすいたしね…」
「そう、その前に、ちょっとだけ、由美子ちゃんに話があるの」
「何?若しかして、パパとのこと?」
「パパとのこと?」
「そうなんっしょ?今日だって、パパとママが大喧嘩してたんだ。本当の子供がどうだとか言って…パパに初めて叩かれたんだ。あんなに怒ったパパ初めてみたさ」
 由美子は、目頭を押さえた。

「それで、今日、家出したんだね」
 芳恵は、由美子が切なそうに涙を拭う姿を見て、胸が締め付けられる思いだった。
 由美子と話をしてみて、彼女が、とても純真で良い娘だと分かった。
 芳恵のことをオバサンと呼んだのは気に食わないが…素直な女の子だった。
 さっきまでの嫉妬とは裏腹に、由美子を憎む気持ちは、和(やわ)らいでいた。
 自分が、これからやろうとしている事が、由美子を更に傷付けてしまうかもしれない…
 だが、ここは心を鬼にして、やらなければいけない。
 やらなければ、真之と共に生きていく上で、永遠にしこりを抱えて生きてゆかなければならない。
 それは、芳恵にとって、耐え難いことだ。

第30章 終了

  

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